Appleのスティーブ・ジョブズやGoogleのエリック・シュミット、大統領候補だったアル・ゴアなどのコーチを務めたという伝説の人物、ビル・キャンベルのことを書いたある種の伝記。生い立ちからなぞって書いているわけではなく、チャプターごとにテーマがあり、こういう場合あの人はこうしていたという構造で綴られている。元々アメリカンフットボールの選手だった彼が、どのように伝説のコーチと言われるまでになったのか、そしてその後の活躍について記されている。
最近、人物にフォーカスした書物を読むようにしている流れで、話題の新刊だったのもありタイムリーだからという事で手に取ってみた。最近コーチングを真剣に勉強してみようかと考えているという背景もある。
AppleやGoogleなどの超巨大企業のトップどのようにしてビルが渡り合ってきたのかを読み進めていく中で気が付いたのだが、ビルがやってきた事はいわゆるコーチングの本に書いてあるようなこととは違ったアプローチのものも多い。口汚く罵ったり、具体的な行動のアドバイスを授けたり独自のスタイルを崩さずやっている様子が窺える。
コーチングについていろいろ調べると疑問として深まってくるのが、専門性とコーチングの関係性だ。僕個人としては専門性がない人にコーチなんてしてもらったところで変化がもたらされるのだろうかと思ってしまう。ビルの活動の記述の中では、Googleの幹部候補の面接の件でコーチングを受ける側の謙虚さの重要性を説いている場面がある。組織を良くするためならばプライドなど何のこだわりもなく、教えを乞うべきだという趣旨であり、それには同意する反面、ビルほどの実績がない場合、そういうスタンスになれるものなのかという疑問も依然残る。
ビル自身も「気づかせる」というコーチングの王道のスタイルだけではなく、自分の経験から来る具体的なことをコーチングを受ける側に提示しているケースもあったようだ。個人的にはむしろそういうスタイルのコーチングもありなのかと思えたことも本書から得られた気づきだった。自分もあまりコーチングの王道を意識して気負わずに、成果が出るためには何でもやるというスタンスでやっていきたいなと読みながら考えた。
コーチングの事例集としてコーチングを学んでいる人にはお薦めの本である。
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