2020年7月 24日 x 村上春樹
村上春樹の最新刊、『一人称単数』を読んでみましたので早速書評を書いてみたいと思います。
『一人称単数』とは
2020年7月20日刊行の村上春樹さんの六年ぶりの短編集です。
8作の短編が収録されています。
感想を書いていきますが、ネタバレの可能性がありますので、気になる方は注意お願いします。
いつもの春樹節
村上春樹さんの小説の主人公は一人称で書かれているので「僕」であることが多いのですが、どの作品の「僕」もほとんど似ている感性の持ち主で、その特徴としてこのようなものが挙げられると思います。
などなど。
この小説の「僕」もまたこの法則通りの人物です。いくつかの小説は具体的に村上春樹さん本人を主人公として書いているのではないかと思われる内容になっています。
文体、文章構造もいつもの通りで、この確立されている形式と主人公のキャラクターも相まって、村上春樹さんの小説は
というような印象を与えます。
今回の『一人称単数』も全く同じパターンの作品集となっています。
短編集であること。
村上春樹さんは長編も短編も書かれていますが、今回は短編集です。
今回の8つのエピソードはどれも主にご自身だと思われる「僕」が過去の出来事を回想していくスタイルで書かれています。どれも何らかの奇妙な出来事にいつの間にか巻き込まれているというストーリーですが、8つのシチュエーションが楽しめるという意味では短編集であることによるお得感があります。どれも、「よく思いつくな」と感心する状況設定、ストーリー運びで安心の横綱相撲です。
村上春樹さんの作品には
というような基本構造がよく出てきますが、今回も8つの短編集もこのような基本構造に沿っているものが多いです。そのためか極めて安心して読むことができます。最近ドキドキすることに疲れている僕にとってはそれがとても心地よい時間でした。
今回の作品が今までと少し違うなと思う点としては、回想で構成されるストーリーの回想する時期の時間軸が割と最近、氏が50歳以降のことが多くなっている印象がありました。すでにご結婚されているので、性的な関係を持たないという点が時間軸によって違うところが興味深いです(裏を返すと若い頃の回想はほぼ性的関係を持っているとも言えます)。個人的には若いことのことを振り返ってもらう方が村上さんらしくて好きですが、最近のことを振り返るパターンにおいては時間を超える不思議な感覚が薄らぐ分、発生する出来事のパンチを強めにしている印象があり、「なるほどそういうオチか」という星新一さんの作品のような読後感がありました。これもまた氏の新しい境地なのかもしれません。
まとめ
多くのファンの方と同じく、いつもの春樹節を斜に構えて批評するような書評を書いてしまいましたが、個人的には1500円分きっちり楽しませてくれる、プロの仕事だなあと感心する作品集でした。
装丁の色合いも素敵ですし、デザインもナイーブな青春ロックバンドのジャケットみたいで、好みです。今回久々に紙の書籍を買ったのですが、しばらく事務所のインテリアとして置いておこうかなと思っています。
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