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渋谷生活ウェブマガジン Shibuya Report



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1991年の渋谷109


1991年は平成で言えば3年。僕はその年に大学生になった。

 

一月は受験勉強、二月は入試、三月はアルバイト、四月からは大学生になっての環境の変化を満喫することと、大学生になったのだから免許でも取ろうかということでの教習所通い、それと前期のテストで、七月半ばまでは瞬殺で終わってしまった。

 

 

時間が経つのって早いなと人生で最初に感じたのはこの頃だったかもしれない。

 

 

三月にバイトして貯めた資金で大学前期は乗り切ったが、そろそろお金も底をつきかけていたので、夏休みのバイトを探すことにした。

今もそんなに計画的な方ではないが、当時は今にも輪をかけて追い詰められないと何もしないたちであった。

 

家から近かったのと、シフトの都合がつきやすかったので、渋谷の109の中にある女性向けの靴屋でバイトをすることにした。若干の好奇心もあった。

 

当時の109はギャルたちのサンクチュアリになる前夜という感じで、ジュリアナ行く人用の服屋とかはあったものの、まだまだ昭和な感じのレコード店とか、今では北千住とかにしかなさそうな紳士向けの洋品店などもテナントとして入っていた。

 

ちょっと話がそれるが、もともと109の土地は戦後の闇市みたいなものから派生したマーケットがあった場所らしく、それを買い上げて現在の109が建ったという。以前そこにあった洋服屋で働いていたという話と合わせて、小さい頃にうちの父が教えてくれた。109が建ったのは確か僕が4歳くらいの頃で、まだあそこに建物がなかった時の記憶もかすかにある。初期のテナントの多くは、出来上がった109に入店することを約束されて土地を手放した、マーケットの人たちだったそうでで、そういえば確かに今でも1091階には、だいぶ数は少なくなったが、なぜか渋い店が生存していてかすかにその名残が感じられたりする。

 

僕がバイトしていた靴店はその戦後の流れを汲む方の店だった。創業者の娘とその婿が経営していて、昼過ぎに来て閉店の20時になるとレジ締め後の売上金を持って帰るという悠々自適の生活をしている夫婦だった。たまにくる創業者のおじいさんとその娘夫婦の元、すごく昔から働いているのであろう60歳前後の店員さんたちと、僕のようなごく普通の大学生のアルバイトがごちゃ混ぜに働いているという、今の109からは想像もできないたたずまいだった。すぐにアルバイトの娘のお尻を触る店長は女子アルバイトからは評判は悪かったが、持ち前の愛嬌で特段罰せられることもなく店長として生き延びていた。先代から仕えているので無碍にもできなかったのかもしれない。おばちゃんたちは僕を生意気な孫のように可愛がってくれた。働き始めてしばらくしてから知るのだが、その中の一人は旦那さんも含めてうちの父親と旧知の間柄だったようで、特によくしてくれた。そんなことを何も考えずになんとなく始めたバイトだったが、偶然というのはあるものだ。当時、色々文句も言ってたが、僕はそんなある種牧歌的でアットホームな雰囲気が意外と好きだった。

 

 

夏休みが終わっても僕はシフトを減らして働き続けていた。クリスマス前になると当時の109では、ラジオ番組調の店内放送が流れていて、同じ曲がずっと繰り返し流れていたのが印象的だった。ずーっとかかってるから曲も脳裏に焼き付いてしまうのだが、中でもこの二曲はとても印象深い。どちらも90年91年当時の洋楽のヒットチャートを賑わせていた曲だ。

 

Crystal Waters - Gypsy Woman 

 

 

 

 

 

 

EMF - Unbelievable / 

 

 

 

僕は高校時代からバンドをやったりギターを弾いて曲を作っていて、音楽は楽しみの対象であるのと並行して創作活動のための研究対象だった。4ピースのバンドをやっていた僕にとって、打ち込みのトラックを多用してバンド編成で再現できない曲は軽薄に思えて、自分の聴くべき音楽ではないと思っているフシがあったのだが、この辺りの曲に出会ってから少し考えが変わるようになる。EMFの音楽はダンストラックにノイジーなギターをかぶせた演奏にどこかヒップホップを取り入れたボーカルがのっているという今までにない感覚の音楽だった。それをバンド形式でやっているということに衝撃を受けた。『Gypsy Woman』の印象的なリフレインと気持ちの良いダンスビートは、それまで毛嫌いしていた今でいうEDMへと自分の音楽の趣味を広げてくれた

 

この曲を聴くと必ず当時のことを思い出す。経営者夫婦の奥さんの方が赤いポルシェに乗ってたことや、一見良い人風なのにすごいめんどくさいバイトの先輩のことや、すごくたまにしかこないおじいちゃんの店員さんが非常に人気者だったことや、女子アルバイトのお尻を笑いながら触る店長のこととかだ。

 

音楽には人生のインデックスのような効用があると思うのだが、この2曲は間違いなく1991年秋から冬にかけての僕のインデックスソングだと思う。その後DJをやるようになってからは、この2曲はセットリストの定番ナンバーになってでなんども使わせてもらっている。EMFはもうあまり活動してないしベースの人は亡くなってしまっている。Crystal Watersは緩やかに音楽活動を続けている。今年53になるそうだ。

 

 

  



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